わたしの、ものさし

私の見たこと、聴いたこと、感じたこと、を書いています

帰宅途中の車内での事故(酔った乗客の粗相=ゲロ)

 これは実際に起こった事実である。

 先日、残業をしての帰宅途中の電車でのことだ。席に座って本を読んでいたら、泥酔した感じの方とその連れが私の前に立った。二人とも女性で、40前後といった会社勤めのようだった。前に立たれた瞬間、嫌な予感はあった。足元がふらついているし、電車が揺れるたびに体が不安定に揺れる。酔っ払いに良い点はなく、リスクしかないのだ。連れはあまり酔っていない様子でサポートしていた。これは席を譲った方がいいかなと一瞬思ったが、酔っ払いに譲るまでもないと思い直し、私は席に座ったまま本を読み続けた。

 2駅程度過ぎたころ、膝の上に温かいものが降ってきた感覚があった。

 コーヒーでもこぼしたのかと見上げると、酔った女が吐いていた。膝の上の温かいものは、吐瀉物(ゲロ)ということになる。私の隣に座っていた女性にも少し降りかかっていたようで、露骨に嫌な顔をしながら、ハンカチでぬぐっていた。私の前の床には、彼女の吐いたモノが落ちている。嫌な予感が的中してしまった。

 吐いた女性と連れの女性は、自分たちのケアで精いっぱいのようだ。必死に口を押え、ふらつく体を支えていた。だから、周囲への謝罪もなければ、もちろん私への謝罪もない。

 なぜか、その間、私は妙に冷静で、女の様子をつぶさに観察していた。女の足元にもゲロが広がり、彼女自身が、酔いと電車の揺れにより、自分のモノで足を滑らせていた。そして次の駅に到着すると、女性二人は私を含め周囲に何の意思表示も示さずに、ただ下車してしまった。

 この間、あっという間だった。その彼女たちの様子が何とも醜いと思った。吐いたモノ以上に醜いものを見てしまった気がした。

 残された私と隣の女性は不動だった。私は、まずどうすべきかを考えていたが、走っている車内で何ができるわけでもなく、状況は変わらない。そうならばと静観しようと、本を読み続けた。膝のうえと目の前の床には汚物が広がっている。幸い、匂いは感じなかった。

 ただ、問題は、次の駅から乗車する客の反応だ。

「うわ!(汚ネェ~)」という声も聞こえた。おそらく、私が吐いたものだと思った人もいただろう。いいや、私は被害者だからね。当然、乗客はケガレから距離を置くので、私の前には空間ができている。向いに座る客の表情も微妙だ。

 結局、このように、周囲のみんながハッピーでなく、みんなが被害者になってしまうところに、ゲロの罪深さがある。

 あの泥酔の女が悪いのだ。ちょっと派手目なくせに、ゲロまみれになり、謝罪も言えないあの女性を思うと、情けなく悲しくもなった。ああいうのが本当のブスなんだろう。ホント、道路とか駅とかを汚す人ってイヤだ。酒を飲むのはいいけど、酔って騒いだり、暴れたり、他人に迷惑をかけるのは最悪で、公共の場で吐くのは、下の下だ。

 吐かれた側といえば、物理的な嫌悪感もあるが、精神的なダメージも相当なものだ。

 

 その後も私は席にそのまま座り電車に乗り続けた。途中下車すると「負けだ」という意味不明な感覚もあった。もっとも、他の乗客からすれば、私がどこで降りてもそこが降りるべき駅だとして、私がゲロのために逃げたのだとは思わないだろう。

 これは、私の中での戦いだった。膝の上にゲロを乗せたまま、どこまで平常心でいられるか。周囲の目を気にする自分とそれに打ち勝とうとする自分の葛藤だった。

 

 結局、4駅分を乗り続け、地元駅の2つ手前で降りた。考えてみれば、ホームグランドの駅にゲロ付きの服で降り立ち、そこで顔見知りの人と遭遇した日には、私が粗相したと解釈されかねない。それは不本意である。

 とにかく、我ながら善戦した。駅事務室に入り、事情を説明し、いつの電車の何号車に被害ありと伝えた。そして駅員からティッシュをご恵与いただき、不毛なゲロ除去作業をした。駅員は気の毒そうに見ていた。おそらくたまにあることなのだろうか、動じずに対応してくれた。

 しばしば、車内清掃のため停車というアナウンスを聞くが、こういった類の対応なんだろう。 鉄道関係者の大変さに敬意を表したい。

 

 結論。車内の酔っ払いには気を付けるべき。特に週末の夜は危険。酔っ払いがいたら、近づかないこと。十分に距離を置き、リスクを避けることがベストだ。油断してはいけない。油断したころに、禍とゲロは降りかかるのだ。