わたしの、ものさし

私の見たこと、聴いたこと、感じたこと、を書いています

香りの記憶と20年前の定宿

 大学生から社会人になったころ(20代前半)、シンガポールに幾度か一人旅したときに定宿とした安宿(ゲストハウス)があった。確か「ニュー・サンディ・プレイス」といって、ニュートンサーカス駅から歩いてすぐ近くのところ。

 他のアジアの安宿を利用したことのある私からすれば、ずいぶん清潔で良い場所だった。トイレバスは共同だったが設備云々というより、主人のサンディが親切で気さくな方だった。サンディは1階の玄関と受付と談話室が一体になっているところに座っていて、ゲストの旅の相談に乗ってくれたり雑談をしていた。サンディは華僑で日本の漢字もなんとなく理解できたので筆談もした。あまり美味しくないが生ぬるいウーロン茶が飲み放題で常備され、テーブルの上のフルーツも好きな時に食べてよかった。その1階にはサンディの家族(妻と2人の子)も出入りしていて、家族と話すときは中国語だったと思う。

 サンディは、だいたい毎晩、様々な国から来ている宿のゲストを連れて、ホーカーズやオチャードロードのバーにご飯を食べに行った。私も何度か相伴し、オランダ人やらフィンランド人と食事をした。

 

 何度か宿を利用していたので、すっかり顔と名前を覚えられ、空港に到着して空港の公衆電話(当時スマホなどなかった)から部屋は空いているか聞いたところ、なぜか免税店でシーバスを買ってきてくれと頼まれ、買っていったこともあったし、ギリシャへ行く途中、シンガポールでのトランジットの時間に、一旦、シンガポールに入国手続してサンディに会いに行った。笑顔で迎えてくれたが、私は飛行機の時間があり、すぐに空港に戻って出国手続をし、ギリシャへ向かった。そんなこともあった。

 サンディが笑顔でいつも私に言っていた言葉がある。

 Donot worry. every thing is ok.(大丈夫。何も心配はいらない)

 東南アジア人独特の楽観主義だったのだろうが、今思えば奥深い哲学的なものを感じる。

 

 先日、近所を歩いているときに、アジアの街の匂いがした。おそらく東南アジア人か中国人が住んでいて、その調味料が発する香だと思う。外国の独特の香りは、その国の人が使うものに依るもので、もちろんその土地自体が発する香りではない。アジアの調味料は香りが強いので、日本の街でもその香りが漂えば、アジアのどこかの雰囲気を醸し出す。香りが演出するイメージは強い。

 そんな香りを嗅いで、シンガポールの宿のことを思いだした。宿のことをウエブで検索してもヒットしない。

 当時、駅前に大きな空地があって、その草むらの中を歩いて宿にアクセスした。20年以上前なので、その空地も開発されて高層マンションでも建っているだろうし、このご時世でウエブ検索して何も出てこないということは、おそらく宿は無くなったのだろう。と思いきや、グーグルで衛星写真を見ると、相変わらず木々や草むらの緑が広がっていた。