わたしの、ものさし

私の見たこと、聴いたこと、感じたこと、を書いています

喫煙所の聖者

 通勤途中に、いつも立ち寄る喫煙所がある。

 だいたい同じ時刻に着くので、吸っているメンバーもだいたい同じ。もちろん、知らない方たちだが、顔だけは馴染みになる。

 その中で聖者のような方がいる。

 喫煙所によく見られる悪い現象として、空になった飲料缶の放置だ。一服しながら缶コーヒーを飲んで、そのまま喫煙所に置く(捨てる)輩がいる。その喫煙所にも、いくつか空き缶が放置されていることがある。

 その聖者は、タバコを吸い終わるといくつか空き缶を拾っていく。他人の捨てたゴミを拾って、適切な場所に捨てているのだ。おそらく愛煙者として喫煙所を綺麗に使いたい、ゴミがたまることで喫煙所が廃止されるのを防ぎたい、喫煙者の良心と矜持によるものか、いずれにしても、余裕のない朝の通勤時に、なかなかできない行為である。

 

 今日は、その聖者の、さらなる聖者ぶりを目の当たりにした。

 聖者が一服しながらカップ式のカフェオレか何かを飲んでいた。その微かな甘い香りに誘われたのだろうか、大きなアブのような虫(とにかく害のありそうなヤバそうな虫)がカップの側面に止まった。最初スズメバチかと思ったほど、大きなアブのような虫である。ふつうならば驚き狼狽してしまうだろうが、さすがは聖者だ。そのアブのような虫を認識しながらも、まったく動じずにカップの飲料を飲んでいる。虫と顔が接近するのにだ。聖者は、静かに息を吹きかけて虫を飛ばそうとするものの、虫は飛んで行かない。私は、聖者に気を使って、見て見ぬふりをしていたが、聖者の動きは、あくまでゆったり、動じずで、紅葉した木の葉が落ちてきたかくらいの雰囲気である。

 かくして、聖者は、ゴミである空き缶2つとアブのような虫がとまったカップを持ったまま、駅へ向かってゆっくり歩いて行った。こういう方もいるのだ。

 今度、機会があったら、その聖者に話しかけてみよう。